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星咲の脳内が垣間見れます。
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うまく笑えたのか自信がないということに、俺自身驚いていた。
それくらい俺にはショックで、複雑で、表情を作るなんて器用な真似をする余裕がないくらい動揺していたんだろう。

ラスティに彼女ができた。

きっと俺は誰よりも喜ぶべきなんだろう。
今まで恋愛なんかそっちのけで自分の過去や現状、そして組織のことに向かって生きてきたラスティに、やっと春の風が吹いたのだから。
相手の女の子、ティアはそんな表現がとても似合う可愛い子だ。雪を優しく溶かすあたたかさと、冬を忍んできた花々を慈しむ心を持った、春ような子だ。
不足はまったくない。秋らしさを纏うラスティとお似合いだと、お世辞でも何でもなく、素直にそう思ってる。
じゃあ、なんでこんなに悲しいんだろう。
2人を引き合わせようとはたらきかけたことを後悔しているのは何故なのだろう。

ラスティを抱く手に力を込めると、苦しそうにしながらも背中をぽんぽんと叩いてくれた。
照れくさそうにティアと付き合うことになったと報告してきたラスティに、俺は多分「よかったな」とか「おめでとう」とか言ったんだと思う。
気付いたらラスティを抱きしめていて、気付いたら目の奥が熱くなっていた。

もうこうしてラスティに触れることは許されないのだろうか。
俺が側にいても、ラスティはティアを想うのだろうか。
親友よりも恋人よりも家族よりも親しく、特別だった俺の存在は、ラスティの1番から外れて、「その他大勢」の括りに入れられてしまうのだろうか。
俺だけに向けられていた特別な表情も、もう見れなくなって、万人用の笑顔が向けられてしまうのだろうか。
何よりもティアのことを優先して、一緒にいられる時間が減ってしまうのだろうか。
普段は自負するほどに前向きなのに、ラスティのこととなるといつもの自分はいなくなってしまう。
俺にだって彼女はいた。今はいないけれど、付き合っては別れ、また付き合っては別れの繰り返しだ。ラスティはいつも苦笑を浮かべていた。仕方のないやつだな、とでも言いたいように。
ラスティはこんな思いをしただろうか?

「レオ」
首のあたりから声が聞こえた。 ラスティだ。
妙に落ち着いて、掻き抱く力を弱めると、すっとラスティは身を離した。
今、俺はどんな顔をしているんだろう。酷い顔をしていることは確かなんだろうけど。
鳶色の瞳に俺の姿が映っている。けれど表情までは分からない。
「お前が何を思ってるのか、俺には分からないけど──」
ラスティが笑う。照れくさそうに。
「俺にとってのお前の存在は、変わらないから」
だから大丈夫だと言外に言われた気がした。
「スティ…」
今度こそ、顔にも声にもでてしまった。
寂しい、と。
俺はラスティにとっての1番でありたいのだという、独占欲の一端が。
ラスティは分かっているのだろうか、俺がどれだけラスティのことが好きか。
ラスティの「好き」が俺以外に向けられてしまった苦しさが。
「……当たり前だろ」
絞り出した声は震えていなかっただろうか。
作り出した笑顔は不自然ではなかっただろうか。



明日はまたいつも通りに笑えるはずだから。
心にできた空白は、そっと埋めずに残しておきたいんだ。




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