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星咲の脳内が垣間見れます。
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ヴァレンスが見つめた虹の足元

そこに、小さな村があった



Ending:虹の下で



朝陽が差し込む宿の一室で、フェイは目を覚ました。
雨が降っていたのか、窓は塗れている。ガラスを伝う雫が透明な朝陽を反射して、キラキラと輝いていた。
「……」
永い、夢を見ていた気がする。
ぼんやりとした意識の中、そう思った瞬間に、つ、と涙がフェイの頬を静かに伝った。
「あれ、なんで、俺……」
とっさに左手で涙を拭って、何故か違和感を覚えた。

──足りない

左手に、何かが足りなかった。
小さくて温かな、誰かの手のひら。すっぽりとフェイの大きな手に収まるほどの、華奢な。この手に馴染んだ、いまだ感触の残っている──
「…っ」
涙腺が壊れたかのように、フェイの目からボロボロと涙が零れ落ちた。
尽きることを知らないかのように。次から次へと。

──足りない

目に浮かぶのは、眩い太陽の色の髪と、蒼い空の色の目を持った少女の笑顔。
耳に残るのは、明るく、時に切なく、自分の名前を呼ぶ少女の声。
服を引っ張る手。抱き締めた時のぬくもり。故郷を望む涙。向けられた、真っ直ぐな瞳。

分からない。それが誰なのか、何だったのか、分からない。覚えていない。一夜の夢のなかのことなのに。
あの夢を想うと、涙が止まらなかった。
拭う掌は、何かが欠落した自分の手。
記憶を覆う分厚い壁を溶かそうとするかのように、フェイは涙を流し続けた。



泣くだけ泣いて、顔を洗って、旅支度を調えたフェイは宿をあとにした。
雨上がりの澄んだ空が広がる。何となく見上げた空には虹はなく、何故かそれが悲しく思えた。
空から視線を外して、自分の足元を見つめる。
今まで自分が踏み締めてきたミッドガルドの大地。不思議と酷く懐かしい。
「…よし、行くかっ」
脳裏を掠めた夢を振り払って、一歩歩み出す。
勢いよく前を向いたフェイの目に、飛び込んできたものは。

「…ッ!」

後ろ姿だけれど、間違いない。
太陽を思わせる金色の髪。
空を切り取ったかのような青色の目。
水色のエプロンドレスに、ふたつの三つ編み。

声も出せずに立ち竦むフェイの視線の先の人物がゆっくりと振り返る。
小さな唇が、動く。


フェイ

彼女の、名は──






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