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星咲の脳内が垣間見れます。
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伸ばした手は、青白い光に縁取られ漆黒に浮かんだ。





幼い頃から、俺は蔑まれてきた。
ゲヘナの地に、その魔力に適応した新人類の銀糸の民(アディーム)として生まれ、突然変異の異端者だと親から敬遠され人間(ハンサーン)から迫害され生きてきた。
親の関心を引こうと幾多の書物を紐解き学問に没頭した。
次第に知的好奇心が湧き、磨きに磨きを重ねていった。
しかしそれでも、親は振り向くどころか更に距離を置いた。
その絶望は、黒沙帯に突き墜とされるよりも苦痛に満ち深夜の偽りの空よりも深い闇を孕んでいた。
今までの努力の無意味さを間の当たりにした俺は、生まれ育った都市を離れた。
親は止めなかった。
周囲の人間はこれ幸いと気色悪い笑みを浮かべて見送った。

魔物がはびこるゲヘナで生き抜くには力が必要だった。
都市で暮らしていた時とは違い、一人旅では魔の手から逃れる術がない。
考えることも迷うこともなく、俺の足は紫杯連(マーリク)へと向かっていた。
聖魔の力を併せ持つ頽廃の果実酒(ザクムのエキス)を摂取し超人的な力を得た享受者が集う紫杯連。
俺はその中でも知性派享受者が組織を成す“鐘杏”へ赴き頽廃の果実酒を望んだ。
享受者としての資質を認められ、俺の前に蒼い酒が注がれたグラスが差し出された。
俺は右手をナイフで切り鮮血を滴らせ、頽廃の果実酒の強い毒性を薄めるべくそれらを混ぜた。
紫の酒。薄めても依然として神の邪霊の力が含まれた毒を持つその酒は、力の足りぬ者を死に至らしめる。
強大な力に耐え生き残る確率は5割。強大な力に負け没する確率も5割。
生への執着心はさしてなかった。
死ぬ理由を渇望していたのかもしれない。
死ねばそこまで。
生き延びたなら──薄汚い人間がおらず迫害もないであろう地上を目指すのも悪くないだろうと。
俺は静かに、グラスに唇を寄せ頽廃の果実酒を呷った。

 

結果、俺は心身を蝕む毒を耐え凌ぎ神と邪霊の力を手に入れた。
より地獄に適した身体へとなり、身体能力も飛躍的に向上した。
保身の為にと炎術を独学で学び会得した。
鐘杏に登録し頽廃の試練を受け享受者となりこの地獄で一人でも生きていけるようになった。
多額の報酬と価値ある経験が得られる依頼をこなす為には他人と仲間になることは避けられなかったが、構成員に人間がいなければそれでよかった。
俺は一人で生き、一人で戦い、一人で地上を目指し、一人で死ぬ。
そう、自分の運命を定めそれに準ずることを決意した。
 
 
 
「――…」
今にも消えそうな星の光が散りばめれた夜空の元で、対象が絶命してもなお貪欲に生命を貪り続ける黒炎を掬い上げ漆黒の闇に溶かす。
足元に転がった黒い塊は、通り掛かりの俺を襲おうとした醜怪な魔物。そしてその下には辛うじて原型を止めている人間。
攻撃を仕掛けてきた魔物に応戦した俺を助けようとでもしたのか飛びこんできた、冒険の意欲に満ち溢れた享受者になったばかりらしい、人間。
呆気なく魔物の尾に捕まり身の自由を奪われた奴を人質だと言わんばかりに掲げてきた魔物。
だが俺にとって人間は”人質”になるには安過ぎた。
寧ろ、人間を焼き殺せる幸福感を覚えたほどだ。
俺は迷うことなく、余裕が生まれ油断した敵と苦痛と恐怖にまみれた人間共々地獄の業火で焼き殺した。
断末魔の叫びをあげ、縋るものを求め伸ばされた腕。
もはや炭となったそれを踏み付ければ、ボロボロと脆く崩れ去った。
「…ゼラキエルよ」
視線を見苦しい足元から偽りの空へ向ければ、そこにはゲヘナからの脱出口のような満月。
透明な光を放つそれに手を伸ばすが、勿論届きなどしない。
「何故――神を裏切った」
分かっている。
それは悪しき人間共が聖の力には目もくれず邪の力へを走りそれに絶望したから。
俺は、人間ではないのに。人間などよりも優れた種族の民であるのに。
人間と等しく、地上と地獄とを繋ぐ月の道を閉ざされたまま。
「何故――イベラルの手を取った…」
地上にも人間がいるという。
いや、正確には地上は人間しかいないのだという。
しかし、神から注がれる地上の温もりを受け生きる人間はこのゲヘナの人間のように私欲に穢れてはいないだろうと思う。
種族が違おうと嫌悪せず他者を認める心があるだろうと。
 
「神よ――」
 
黒炎では衝動を満たせない
白炎では心まで癒せない
 
なのに何故、このように魔に親しい身体を持ったのか………
 
 
 
月はただ、美しく漆黒の水面に浮かびゲヘナをその光で包みこんでいた。









■ゲヘナ:地下世界(地獄・冥界)の総称。ゲームの舞台。
 
■銀糸の民(アディーム):冥府の魔力に適応した新人類。人間の両親から突然生まれ、生まれつき魔術の能力に秀でている。銀髪と青白い肌を持つ。人間に迫害されている(らしい/だといいな)。
 
■人間(ハンサーン):ゲヘナの世界に最も多く存在する種族。地上の王国が丸ごとゲヘナに落ちた際、共に生きながらにして地獄に落とされた元地上の人間達とその子孫。
 
■黒沙帯:生者の領域と亡者の領域を分かつ黒い砂の地帯。黒い砂は、浄化されなかった負の感情を吸収し黒に染まった悪意と瘴気の塊。猛毒に似た性質を持つ。
 
■偽りの空:ゲヘナの頭上に広がる空。天上の太陽の温もりは届いていない。”光帯”という光源が存在し、それの輝きの強さによって色が変化する。
 
■都市:かつて地上で栄えた王国が分裂し、それぞれの部族や集団が国として独立している都市国家。規模は大小様々。
 
■魔物:人間に危害を加える獣や魔性の総称。
 
■紫杯連(マーリク):超人的な力を持つ享受者達の相互扶助組織。裏から世界を支配し、4つの巨大勢力がせめぎあっている。
 
■頽廃の果実酒(ザクムのエキス):聖と魔の力が宿る魔法の酒。これを飲用し生き残れば享受者となる。
 
■鐘杏:四大紫杯連のひとつ。魔術を得意とする知的派享受者が集う規模ナンバー2の紫杯連。
 
■享受者:頽廃の果実酒を飲み、超人的武術や魔術を身に付けた者達。つまりPC。
 
■地上:ゲヘナの上にある世界。ここから地獄に落っこちた。
 
■邪霊:イブリスの生み出した邪悪な種族。人間を苦しめ堕落させる。
 
■炎術:数ある術技のひとつ。通常の炎である”赤炎”、破滅と破戒の”黒炎”、防護と再生の”白炎”の3種の炎を自在に操る魔術。
 
■黒炎:地獄で魂を燃やす責め苦の為の黒い炎。破滅と破戒を司る。
 
■ゼラキエル:天上・地上・冥界の三世界の往来を支配する月の天使。イブリスと共謀し天上・地上から冥界を隔離している。
 
■月:地上と変わらずゲヘナにも浮かんでいる。天上・地上・冥界の三世界を繋ぐ門であるとされ、魂をはじめとするあらゆる存在は、月を介してそれぞれの世界を往来することができる、とされている。
 
■イベラル:歴史上、最強の妖霊。その聡明さによって天使以外で唯一天上に昇ることを神に許された。後に神に背き、邪霊の王となる。
 
■「黒炎では~…」:ルールブックのイントロダクション・サンプルキャラのページに載っていた台詞のパクリ。
 
 
参考資料:『ジャイプTRPGシリーズ ゲヘナ~アナスタシス~』 中野公侍/グループSNE著 ジャイプ株式会社発行 2006年2月9日初版発行
公式HP:http://www.jive-ltd.co.jp/gehenna/




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