忍者ブログ
星咲の脳内が垣間見れます。
[20]  [19]  [17]  [16]  [15]  [14]  [10]  [6]  [4]  [3]  [2
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



「…よし。行くぞ、ヴェルグ」
仲間達がいなくなった部屋で、フレースはごくりと喉を鳴らした。
右腕に止まる鷹に声をかけ、ゆっくりと足を踏み出す。
覚悟を決めて石造りの扉に触れた刹那、フレースは仲間達と同様に、その場から消えた。


一瞬意識が途切れた後、フレースが目を開けるとそこには暗闇が広がっていた。
左手の松明が照らし出す明かりには、フレースとヴェルグの影だけが浮かび上がっている。
「おい、皆いるか?」
焦りを覚え辺りを照らしてみるものの、誰の姿も見えない。
フレースの問い掛けは闇に溶け、松明が燃える音だけが静寂を破っていた。
「どういうことだ…?」
立っている場の幅は5m、高さは7mほどで、床は真っ直ぐ奥へと伸びているようだった。
閉所ではないものの、ヴェルグは暗闇に弱い。
鷹使いの身としては辛い状況だ。
「…ヴェルグ」
腕の愛鷹を見れば、警戒しているとも怯えているともとれる表情でじっと身構えていた。
フレースを掴む爪の力も、幾分強まっているように感じる。
ここで自分がうろたえれば、それが鷹に伝わって不安にさせてしまう。
主人である自分がしっかりせねばと、フレースは毅然とした態度で松明を握り直し、闇を見据えた。
「行こう」
ヴェルグが僅かに羽を広げ、姿勢を整える。
その横顔に安堵を覚えながら、フレースは奥へと足を進めていった。


松明を持たぬ者への罠なのか廊下に仕掛けられていた落とし穴を通り過ぎ、フレースは廊下を歩き続けた。
闇が、果てはないのかと錯覚させる。
フレースの堅い足音と炎の音だけが響き、やがて彼らの前に扉が現れた。


カシャン


が、喜んでばかりではいられなかった。
扉の前で立ち塞がっていたのは、4つの手を持つ骸骨。
白骨の手にはそれぞれブロードソードが握られ、深い闇をたたえた眼腔はフレースに狙いを定めていた。
「ヴェルグ、離れろ!」
号令と共に腕を払えば、鷹の爪が離れ、羽音が頭上から降ってくる。
鳥目であるヴェルグを、薄暗闇の中で戦わせるわけにはいかない。
羽音は、フレースから離れた場所から響いている。
つまり、危険に晒されるような位置にはいない。
ヴェルグの安全を確信したフレースは、松明を床に置き、すらりと鞘から剣を引き抜くと左手に盾を構えてスケルトンウォーリアを睨み付けて対峙した。
一人で、しかも薄暗闇での戦闘に不安はある。
けれど今の彼には、応戦するより他に道はない。
フレースが動くより先に、スケルトンウォーリアが躍り出て剣を勢いよく降り下ろす。
「──ッ!!」
刃先は明らかにフレースの喉を狙い、避けきれなかったフレースは歯を食いしばって目を堅く閉ざした。
血肉が鉄に切り裂かれる湿った音がフレースの耳に届き、ほぼ同時に喉のあたりに衝撃が走る。
だが、フレースに永遠の瞬間は訪れなかった。
「…?」
不思議に思い恐る恐る瞼を上げる。
開けたフレースの視界に、あるものが舞った。



──鷹の 羽 。



「……ヴェ、ルグ?」
目を見開き、呆然と足下に視線を落とす。
そこには、紅い血の海に沈んだ愛鷹の姿。
体中の血が、サッと引いた。
「ヴェルグ!おい、ヴェルグ!!」
剣と盾を放り出して屈み、ヴェルグを抱き上げる。
触れた指先に伝わる鼓動は弱々しく、息もいつ止まるやもしれないほどか細いものだった。
腕の中でぐったりと血を流すヴェルグの身体がどんどん冷えていく。
「ヴェルグ…!!」
応急処置を施そうとしたフレースの視界の端で、スケルトンウォーリアの剣が振り下ろされる。
無駄だと分かっていながらも、ヴェルグを抱く右腕はそのままに、フレースは左腕を掲げた。

もう、自分はどうなったっていいから。
腕なんて、失ったっていいから。
どうか、どうかヴェルグだけは──。

左腕に刃が食い込もうとすると同時に、衝撃がフレースのこめかみを駆け抜けた。
「…ッ?!」
覚えのある痛みに咄嗟に振り向けば、そこには、愛鷹の姿があった。
目は生命に満ち、柔らかい身体からは温もりが伝わってくる。
「え、……ヴェル…グ…?」
掠れた声で呟き、腕の中へと視線を戻す。
右腕からは血に塗れたヴェルグの身体は消えていたが、生々しい死の感触は残ったままだった。
「ヴェルグ………ヴェルグ、無事で良かった……」
震える手で鷹を撫で、肩に止まる温かさに顔をうずめる。
ヴェルグは、静かにフレースへと身を任せ、すりすりと擦り寄った。
「ヴェルグ…」
名を呼んで、涙腺が緩みそうになるのをぐっと堪える。
怖かった。
何も考えられなくなって、ただ怖くて。
この存在の喪失は、全ての喪失だと、過言などではなく、そう痛感した。
あれは幻だったけれど、決して実際に起こらないことではない。
ヴェルグは、自分が想うのと同じくらい、あるいはそれ以上に、自分を慕い、想ってくれている。
主人の危機となれば、躊躇うことなく盾となるだろう。
そんなこと、させない。させるわけにはいかない。
己を繋ぐものは鷹で、鷹を繋ぐのは己なのだから。


唇をきゅっと引き結び、フレースは目の前に立ちはだかる扉を仰ぎ見た。



汝 力を求めしか



刻まれた文字を頭で理解するより早く、フレースは心の中で答えた。



欲しい。
力が。
大切なものを守り、自分を守る力が。

──欲しい。



無言の問いに無言で答えれば、音もなく重厚な扉が開き、隙間から溢れた光が暗闇を飲み込んでいく。
眩い光の洪水の中、フレースはその奥をじっと見つめ、肩に感じる爪の鋭さや確かな存在の温もりに感謝と喜びをかみ締めつつ、歩きだす。
あの冷たさと決意を、胸に刻んで。





PR
●●● COMMENT ROOM ●●●
NAME
SUBJECT
COLOR
MAIL
URL
COMMENT
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
ブログ内検索
最新CM
最新TB
バーコード
カウンター
忍者ブログ [PR]
【 ♥ イラスト提供:Night on the Planet ♥ 】