星咲の脳内が垣間見れます。
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また、信じてしまった。
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どこかに行きたい。
一人で何も考えずに誰にも迷惑かけずに生きていけるようなところに行きたい。
雨が止まない。あれだけ雨に打たれたのに洗い流されることはなかった。
内側から段々と腐敗していくのが分かる。
過去からのストレスが絶え間なく頭に押し寄せて、処理しきれない分が体中を巡って暴れてるのが分かる。
その暴力的なものを押し込めようとするとまたストレスが生まれて許容量を超えたストレスに絶えきれずまた暴れ回っているのが分かる。
もうここにはいられないということが分かる。
雨が降らない、誰もいないところに行きたい。
七篠さんの指先が刻み煙草を器用に丸めて、キセルの先に詰める。
七篠さんがいやに真剣な顔で火入れにキセルを差し込む。
数秒後にゆらりと漂う香りと煙に、七篠さんは満足そうに笑った。
「それ、吸わせて」
キセルを指差す。
七篠さんは心底嫌そうな顔をした。
「駄目だ」
「いいじゃん、ちょっとだけ」
「だーめ」
「じゃあ名を教えて」
「いーやーだ」
背中を向けてプカプカとキセルを吸う。
煙が輪っかになって、UFOみたいに飛んでった。
「教えたろか?」
僕の肩から顔を覗かせたのは、歯のない鼠。
何でも、猫型ロボットの耳を囓った時に取れてしまったらしい。
どうやらロボットの素材と鼠の歯は互角らしい。
「本当?教えて教えて」
「あいつの姓は…」
「わー!やめろやめろ!」
凄まじい形相で七篠さんが突っ込んできて、鼠はカラカラと笑いながら僕の肩から下りて果てのない穴へと逃げていった。
「ちぇ、ケチ」
「うるせー、名前つけんぞ」
「う」
名をつけられたら僕は多分ここに来られなくなる。
僕はこの台詞にきっとずっと僕は勝てない。
「あれ、そう言えばあの猫型ロボットは?」
「追っ払った。奴は足りないものを埋めちまうからな」
「じゃあ、僕に名をつけたら七篠さんも追っ払われるじゃん」
間違ってない。
なのに、七篠さんは僕が間違っているような顔をした。
「何」
「別に?」
七篠さんはとても器用な人だ。
無い顔をコロコロとよく変える。
「ね、何?」
相変わらず、笑ったままで。
七篠さんは、煙を目一杯吸い込んで、それはもうゆっくりと吐き出した。
「秘密っつうのは欠けるべきもんなんだよ」
煙はぷかぷかと宙を彷徨い窓辺へと向かい。
やがて鳥の姿になると滑るように羽ばたいていった。
「フ、フレースさんっ!」
「ん?」
「どうやったらフレースさんみたいな凄い鷹匠になれるんですかっ?秘訣とかあるんですかっ?」
「秘訣かぁ…」
「…(わくわく)」
「秘訣なんてないよ。俺はただヴェルグが大好きなだけだ。 な、ヴェルグ」
「…そうっ、すか…(ああ、やっぱりフレースさんはフレースさんだった…)」
なんて。
弟子入り志願者とか「コツとかあるんですか?」って訊かれたらこう返したらいいと思う。
な、フレース。
「いい天気だなぁ、ヴェルグ」
雑木林が点々と存在する草原の、小高い丘の上でフレースは立ち止まり、新鮮な空気を身体中に吸い込んだ。
立ち止まれば、頭上を飛んでいた鷹が慣れた動作で左肩に降りてくる。
肩に感じる重みや爪の感触は、フレースにとって全く負担にならない。寧ろ、安心する。
太陽に温められた風がそよそよと吹く中で、心地よさに目を細めながら、フレースは愛鷹であるヴェルグを優しく撫でた。
「少し自由に飛んでくるといい。行っておいで」
右腕を差し出せばそこに移り乗り、促せば優雅に羽ばたいていく。
薄雲が浮かぶ水色の空に、美しい鷹が颯爽と舞う光景は決して見飽きることはない。
数秒の間だけ見入って、フレースは伸びをしたあと、ごろんと丘に寝転んだ。
まばらに生えた草がフレースの肌をくすぐる。
息を吸えば、瑞々しい草と土の匂いがした。
ゆっくりと目を閉じて、大地の鼓動や大空の息吹を身体全体で感じ取って、フレースは瞼を上げた。
彼の真上の上空で、ヴェルグが滑らかに円を描いている。
苦笑ともとれる笑みを零して、フレースは首に下げている鷹笛を唇に挟んで息を送った。
発された合図に呼応するようにヴェルグが鳴き、フレースの視界から外れて飛んでいく。
ヴェルグは強いし、頭も良い。
目の届かない林や森に行ったって、そうそう不安になどならない。
いつも、主人であるフレースの傍にいて、忠実に命令を聞いてばかりいるから、こんな時くらいは自分の意思で自由に過ごして欲しい。
羽を伸ばすという言葉がぴったりだな、とフレースは一人小さく笑った。
太陽の気配を瞼越しに感じながら、フレースは旅を共にしている青年のことを思い出す。
彼に知らせずにふらりと来てしまったから、今頃彼は呆れているだろう。
一日一善を心掛ける彼が、迎えにきてくれるといい。
あるいはヴェルグが、起こしてくれてもいい。
敵襲なんかも、面白いかもな。
やがて穏やかに、心地よい眠気がフレースを包み込む。
深く息を吐いて、そよぐ風に身を任せれば、夢の中へと墜ちていくのは早かった。
とある日の、平和な午後の風景。
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